2020年09月07日

阿部和重「アメリカの夜」『ピストルズ』

2020.9.7 月

83 アメリカの夜 1994年 群像新人文学賞受賞作

裏帯より
「映画学校を卒業しアルバイト生活を続ける中山唯生。芸術を志す多くの若者と同じく、彼も自分がより「特別な存在」でありたいと願っていた。そのために唯生はひたすら体を鍛え、思索にふける。閉塞感を強めるこの社会の中で本当に目指すべき存在とは何か。




阿部和重『ピストルズ』2010年3月

荒廃する世界の片隅で、少女は奇跡を起こせるか・・神の町に住まう哀しき一族をめぐる大サーガ開幕

「若木山の裏手には魔術師一家が暮らしている」

田舎町の書店主・石川は、町のはずれに住む蒲生家と知り合いになる。蒲生家は魔術師一家と噂されていた。

謎に包まれた蒲生家の秘密を探るべく、蒲生四姉妹の二女・作家のあおばにインタビューを敢行。

そこで語られ始めたのは、一族の間で千年以上も継承された秘術にまつわる目くるめく壮大な歴史だった・・

ピストルズ [著]阿部和重[掲載]2010年4月4日asahi.com(朝日新聞社)
[評者]斎藤環(精神科医)■「神町サーガ」の壮大な物語空間

 本作は傑作長編『シンセミア』に続く「神町サーガ」第二部にあたる物語だ。

 陰謀と暴力に満ちた前作は夥(おびただ)しい死体とともに終幕したが、本作は一転して、少女向けファンタジーを思わせる描写で幕を開ける。神町で人知れず暮らす不思議な一家の、一子相伝の秘術を巡る物語。その存在に興味を持った書店主が、小説家の次女にインタビューする形で物語は進む。後半は植物の力を借りて人々を支配する非実在美少女(笑)が主人公だ。

 設定は前作と共通するが、描かれるのはほぼ独立した別世界だ。フラワームーブメントやニューエージ思想の断片が細部にちりばめられ、インターネットや暴露ウイルス、CIAの陰謀といった要素がパズルのように組み合わされる。

 神町は阿部が生まれた実在の町だが、中上健次の「路地」と同様、徹底した虚構化がほどこされている。このとき地名は、作家の想像力を触媒する物語環境として機能している。

 デビュー以来、阿部は一貫して形式主義者だった。阿部には定まった「文体」がない。しかし文体をも含む語り口の形式を自在に操作するその身ぶりには、「メタ文体」とも言うべき阿部独特のスタイルがある。一見不穏なタイトルも、実は「雌しべ」のダブルミーニング。そんな二重三重の仕掛けに満ちた本作で、阿部は女性の一人称視点を借りて神町の歴史を秘術継承史として語り直そうとする。

 物語が進むにつれ、『グランド・フィナーレ』を始めとする過去の作品群が、実は「神町サーガ」の一部であったことが明らかにされていく。そして驚くべき結末へ。形式主義は一種の叙述トリックだった。物語の底が抜けたような浮遊感に、我々は作家の技巧に翻弄(ほんろう)される歓(よろこ)びを噛(か)みしめることになるだろう。

 第三部までが予定されているという神町サーガは、バルザックの「人間喜劇」のような壮大な物語空間を予感させる。しかしこの作家のことだ、次作では再び鮮やかな“裏切り”によって、われわれを驚かせてくれるに違いない。

    ◇

 あべ・かずしげ 68年生まれ。『グランド・フィナーレ』で芥川賞を受賞。


阿部和重
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
(あべ かずしげ、1968年9月23日 - )は、山形県東根市神町出身の小説家、編集者、映画評論家。

日本映画学校(現・日本映画大学)卒。演出助手等を経て、1994年『アメリカの夜』で群像新人文学賞を受賞しデビュー。1997年の『インディビジュアル・プロジェクション』で注目を集める。テロリズム、インターネット、ロリコンといった現代的なトピックを散りばめつつ、物語の形式性を強く意識した作品を多数発表している。2004年、大作『シンセミア』により伊藤整文学賞、毎日出版文化賞、2005年『グランド・フィナーレ』により芥川龍之介賞(芥川賞)をそれぞれ受賞。『シンセミア』を始め、いくつかの作品には「神町」を中心とする設定上の繋がりがあり、インタビューなどでは「神町サーガ」の構想を語っている。

来歴 [編集]
デビューから1990年代 [編集]
1968年、山形県東根市に生まれる。実家はパン屋。斜向かいに映画館があり、小学生の頃の夏休みや冬休みには映画館の中で一日中遊んでいたという。山形県立楯岡高等学校を2年生の時に中退し上京、映画監督を目指して神奈川県にある日本映画学校に入学する。1990年に日本映画学校卒業、演出助手として勤め始めるが、後にフリーターを経て執筆活動を行うようになる。

1994年、『アメリカの夜』(原題『生ける屍の夜』)で第34回群像新人文学賞小説部門受賞しデビュー。同一人物である語り手と主人公が分裂し、小説内で絶えず自己言及をしていくという設定の作品であり、作品冒頭では柄谷行人の評論『探究I』のパロディーを行った。同年の第111回芥川賞候補、翌年の第8回三島由紀夫賞候補ともなった。続けて1995年、『ABC戦争』『公爵夫人の午後のパーティ』を発表。特に初期の作品は蓮實重彦などの文芸評論の影響が強く、記号や数字・文字などの形式そのものへの意識を前面に押し出し、文体も蓮實的な韜晦に満ちた長大な文体を志向しており(後に形式意識はストーリー性の統制、韜晦は現代的なユーモアに転化されていく)、対談などでもしばしばそのことを言及している。1996年、『カイエ・デュ・シネマ・ジャポン』の編集委員となり、以降映画評論にも携わる。

語りが4重の入れ子になった小説『ヴェロニカ・ハートの幻影』をなどを経て、1997年、『インディヴィジュアル・プロジェクション』を発表、第10回三島賞候補となる。スパイ養成所出身者の日記という設定で、理論性とエンターテインメント性を両立させ、当時の新進作家を示す「J文学」のキーワードとともに話題となった。また、キャミソールとパンティーのみを装着した風俗嬢をモデルに使用した、常盤響によるエロティックな装幀も注目される。後にこの装幀は、『PRIVATES GIRLS』というアダルトビデオのパッケージでパロディーされた。しかし、阿部も常盤も「引用されるとは痛快だ」と、楽しんでいたという。

1998年、ストーカーを扱った『トライアングルズ』で第118回芥川賞候補。同作品を収録した短編集『無情の世界』で1999年、第21回野間文芸新人賞受賞。しかしこの時期まで文学賞の受賞はこれのみで、評論家からの評価や話題性に反し受賞が少ないことから「無冠の帝王」などとも言われていた。

2000年代
2001年、『シンセミア』執筆の合間に書いたという中篇『ニッポニアニッポン』で第125回芥川賞候補、翌年三島賞候補となる。本作では少年がインターネットを通じてトキ保護センターのトキ殺害を計画する姿を描いた。

2003年、『シンセミア』刊行。雑誌連載を1999年11月に開始してから4年掛かりで完成させた1600枚に及ぶ大作であり、東根市神町を舞台に壮大なスケールの物語を展開させ、高い評価と注目を得た。大江健三郎の『万延元年のフットボール』、中上健次の『枯木灘』などと比較されることも多い。2004年、同作で第15回伊藤整文学賞小説部門、第58回毎日出版文化賞第1部門を受賞。

2005年、『グランド・フィナーレ』で、第132回芥川賞を受賞。娘のヌード写真を撮った事がばれて、妻から離婚されて失職したロリコン男性が、東根市神町で2人の少女と出会うという物語である。デビュー10年、『シンセミア』で既に作家的地位を確立した上での受賞となり、受賞会見では「複雑な心境」と語る。選考委員の宮本輝からは「小説の芯のようなものが太くなった」と評された。同年『新潮』11月号に受賞第一作となる短編『課長 島雅彦』を発表、盟友である中原昌也と島田雅彦の諍いを受けて島田の文壇的な振る舞いを揶揄した。

2006年の『ミステリアス・セッティング』では現代の『マッチ売りの少女』を目指したとして、吟遊詩人に憧れる少女の悲劇を描いた。またこの作品は紙媒体ではなくケータイ配信の形で発表された。阿部はインタビューで「十数年小説を書いてきて」作品のスタイルを変えることが困難になったと言い、小説の書き方をリセットするためにケータイ小説の形を選んだとしている(『メンズノンノ』2007年3月号)。2009年には『群像』11月号にて長編『ピストルズ』の連載を完結、刊行された同書で谷崎潤一郎賞を受賞した。

人物
『メンズノンノ』2007年3月号の中で、阿部は「わたしのおすすめ本」と題して『抄訳版 失われた時を求めて』と『神聖喜劇』を挙げているが、いずれもデビュー作で取り上げられた小説であった。
好きな女優はキャメロン・ディアス。
一時「好きなアイドルは後藤真希」と公言する。芥川賞授賞式では道重さゆみ(モーニング娘。)が得意とする“うさちゃんピース”のポーズを決め、「モーヲタ」たちの話題となった。今は後藤真希の件はあまり触れなくなった。
テレビアニメ版『カードキャプターさくら』のファンを公言し、『ニッポニア・ニッポン』では同作品の主人公の名前をもじった「本木桜」を、またテレビアニメ『おジャ魔女どれみ』のヒロインの一人・瀬川おんぷをもじった「瀬川文緒」を登場させている。
漫画家榎本俊二は映画学校時代の後輩。この縁で榎本の『GOLDEN LUCKY』第2巻にミサイル役で実写出演している。
妻は作家の川上未映子。2011年10月に婚姻届を提出、史上初の芥川賞作家同士の結婚として注目を集めた。阿部は2008年8月、川上は2010年10月にそれぞれ別の配偶者と離婚しており、ともに再婚である。2008年10月に東京都内で行われた文芸誌『早稲田文学』のシンポジウムで知り合い、2011年1月から交際していた[1]。

結婚を発表した川上未映子さん、最新作で「恋愛の究極」を投げかける

著書
小説
アメリカの夜 1994年7月、講談社、のち文庫、ISBN 978-4062730570、解説は佐々木敦。
初出:『群像』1994年6月号(当初の題名は『生ける屍の夜』)
ABC戦争 1995年8月、講談社 のち新潮文庫『ABC戦争 plus 2 stories』として、
公爵夫人邸の午後のパーティー
ヴェロニカ・ハートの幻影 を追加、ISBN 978-4101377223、解説は蓮實重彦。
インディヴィジュアル・プロジェクション 1997年5月、新潮社、のち文庫、ISBN 978-4101377216、解説は東浩紀。
公爵婦人邸の午後のパーティー(『ヴェロニカ・ハートの幻影』を併録)1997年7月、講談社
無情の世界 1999年1月、講談社、のち新潮文庫、ISBN 978-4101377230、解説は加藤典洋。
トライアングルズ(『群像』1997年12月号)
鏖(『群像』1998年12月号)
ニッポニアニッポン 2001年8月、新潮社、のち文庫、ISBN 978-4101377247、解説は斎藤環。
初出:『新潮』2001年6月号)
シンセミア 2003年10月、朝日新聞社、のち文庫(T)ISBN 978-4022643773(U)ISBN 978-4022643780、2006年11月(V)ISBN 978-4022643797(W)ISBN 978-4022643803
グランド・フィナーレ 2005年2月、講談社、のち文庫、ISBN 978-4062757751
グランド・フィナーレ(『群像』2004年12月号)
馬小屋の乙女(『新潮』2004年1月号)
新宿ヨドバシカメラ
20世紀
プラスティック・ソウル 2006年3月、講談社、ISBN 978-4062102605。
福永信『プラスティック・ソウル』リサイクルも収録。
ミステリアス・セッティング 2006年12月、朝日新聞社、ISBN 978-4022502445。
携帯サイトで連載した小説を単行本化
ピストルズ 講談社、2010年3月、ISBN 978-4062161169

単行本未収録作品
赤ん坊が松明代わりに(『文藝』、第1回・2004年夏号、第2回・2005年春号)
中原昌也との共作小説
課長 島雅彦(『新潮』2005年11月号)
イッツ・オンリー・ア・ビッチ(『思想地図』vol.4)
『涼宮ハルヒの憂鬱』の二次創作小説
エッセイ・評論 [編集]
アブストラクトなゆーわく 2000年4月、マガジンハウス、ISBN 978-4838711673
映画覚書vol.1 2004年5月、文藝春秋、ISBN 978-4163659206
対談集 [編集]
阿部和重対談集 2005年8月、講談社
和子の部屋 朝日新聞出版、2011年
共著 [編集]
現代語訳 樋口一葉・十三夜他 河出書房新社、1997年
樋口一葉の作品を現代の作家が現代語訳。藤沢周、篠原一との共著。阿部は『わかれ道』を担当。
ロスト・イン・アメリカ
青山真治、黒沢清、安井豊、塩田明彦との共著、稲川方人、樋口泰人の編集による。
2000年4月、デジタルハリウッド出版局、ISBN 978-4925140195
青山真治と阿部和重と中原昌也のシネコン! 2004年7月、リトル・モア
シネマの記憶喪失 2007年1月、文藝春秋、ISBN 978-4163685700
『文學界』での連載を単行本化、中原昌也との共著

三宅乱丈による『鏖』の漫画化作品と、阿部の書き下ろし短編小説『くるみ割り人形』を収録
2007年2月、小学館[IKKI COMPLEX]、ISBN 978-4091883575。

阿部和重 - Wikipedia
posted by りょうまま at 07:38| Comment(0) | TrackBack(0) | 阿部和重 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする