2014年01月30日

中島京子「のろのろ歩け」

2014.1.30・・再読たらーっ(汗)

2013.7.18

◆中島京子「のろのろ歩け」(2012.9)

・北京の春の市問い服・・1998年、ファッション雑誌の夏美35歳は中国で創刊されるファッション雑誌の編集の手伝いをするため3ヶ月間北京に滞在する。北京に来るのは10年ぶり。大きく変貌した北京で奮闘する夏美

・時間の向こうの1週間・・駐在員の妻として上海に住むことになった亜矢子の1週間の物語

・天燈物語・・・母が亡くなって1年。台湾にいる3人のおじさんを訪ねることにした美雨の物語

北京、台湾、上海――刻々と変わりゆく隣国を訪れた日本の女性達は何を見つけるのか。1999年、中国初のファッション雑誌創刊のため北京に来たフリー編集者、かつて台湾に留学していた母の隠された恋を追って現地の青年と台湾を旅する娘、夫の転勤のため上海で家探しをするはめになった妻。時に心細く、時に大胆に異国をゆく主人公の心の波立ちを丁寧に、飄々としたユーモア漂うタッチで描き出す3篇。旅心くすぐる中篇集です。(HY

近くて遠い異国で、彼女たちは何を見る?
三人の女性の旅物語


北京、台湾、上海。刻々と変化する隣国を訪れた3人の女達が未知の風景の中で出会う、未知の自分。飄々とした異国情緒溢れる中篇集

『のろのろ歩け』(中島 京子・著) | 単行本 | 書籍情報 | 文藝春秋

のろのろ歩け』 中島京子著

 慢慢走はマンマン・ゾウと読み、中国で別れ際に用いる言葉。

 タイトル『のろのろ歩け』はその直訳で、「気をつけてお行きなさい」という気持ちが込められているのだろう。北京、上海、台湾。三つの場所を旅する三人の日本人女性を描く、三つの中篇(ちゅうへん)集。

 マンマン・ゾウ、と声をかけられるのは、『北京の春の白い服』の主人公、夏美。時は一九九九年、中国女性向きファッション雑誌創刊のため、彼女は唯一の日本人として北京に招聘(しょうへい)される。しかし春向けの誌面作りの会議で、「冬の服をまだ着て春に備える」という、外国人からすれば目眩(めまい)がしそうな企画を打ち出され……多様な顔を持つ国への外からの視線と、そこに降りたって、人と交わって、はじめて触れることのできるもの。あるいは、時に応じてかたちを変えながら残るものと失われるもの。相反するものの狭間(はざま)で格闘しながら、揺るぎなく、爽やかに、夏美自身が際立ってゆく。

 『時間の向こうの一週間』の舞台は現在の上海。赴任した夫についてきたが夫は超多忙、住居探しを一人でする妻・亜矢子の物語。危うい一週間の最後に発揮される、亜矢子の筋の通ったやさしさ。「友は旦(あした)に辞す龍子(りゅうし)の楼、西のかた陽関を出づるといえど、また新たな友情がきみとともにあり……」清々(すがすが)しく暗唱する彼女は、物語の歓(よろこ)びそのもののヒロインだ。

 亡き母の遺(のこ)した謎の言葉「台湾には三人おじさんがいる」を追って旅するのが『天燈幸福』。仙人術の趙先生をはじめとして、出会う人たちが皆それぞれ陰翳(いんえい)ある〈旅〉を生きている。

 三篇に共通するのは、主人公が言葉やその他いろいろなものをしなやかに受け渡ししていること。そうすることで、彼女たち自身も変化を遂げる。彷徨(ほうこう)でも旅行でもない、旅は自らの一部を他者と掛け値なしに交換しながら進んでゆくもの。真摯(しんし)な旅の時間が、小説のなかに詰まっている。

 ◇なかじま・きょうこ=1964年、東京生まれ。2003年、『FUTON』でデビュー。『小さいおうち』で直木賞。

 文芸春秋 1300円

■街の急速な発展と日常の矛盾

 三つの中編からなる本著。北京、上海、台湾の三都市をそれぞれ背景として、仕事や生活、親子関係に事情を抱える日本人の女性が、一人で異国の町へ出かけるという、いわゆる「三都物語」だ。
 第一編「北京の春の白い服」の設定は、一九九八年である。夏美は、かつて留学した地でもある北京へ、若い女性向けのファッション誌を作るために訪れた。たかだか十年の間なのに、まるきり違う都市のように変わっていた北京。開発はなお急スピードで進んでいた。
 一方で「慢慢走(マンマンゾウ)(のろのろ歩け)」という北京人の日常の挨拶(あいさつ)がいつも耳にまとわりつく。矛盾に思いながらも、夏美は、翌春の世界の流行になると予測される真っ白のファッションを、黄砂の吹く北京で全面的に押し出そうと奮闘する。作品の時代から更に十数年を経た今、これを読む。北京の急速な発展と「慢慢走」のギャップが一層際立ってしまう。
 「時間の向こうの一週間」では、亜矢子は、上海へ転勤した夫と一緒に暮らす部屋探しのため虹橋(ホンチャオ)空港に降り立った。「無関時間(THE OTHER SIDE OF TIME)」、ここに流れているのとはもう一つ別の時間、という語によって亜矢子の上海の印象は作られる。出会った人々は、申し合わせたかのように憧れめいた口調で「ルーザーズ・ヘブン」と言う。上海で暮らす女性、ルー・ビンはこの英語の意味をいったん「失敗者的天堂」と書いて説明し、亜矢子は「負け犬の楽園」という日本語にたどり着く。一見直訳でも、不思議な深みがある。みんなが成功を目指さなくてはいけない都会に疲れて、ルーザーになりたいと願う。今日の中国人の苦悩がこの一語に凝縮されているようにさえ思えた。
 死んだ母の不倫相手を探りに台湾へ出かける「天燈幸福」も、胸がほのぼのとしてくる一編だ。
    ◇
 文芸春秋・1365円/なかじま・きょうこ 64年生まれ。作家。『小さいおうち』で直木賞。『眺望絶佳』など。
ラベル:のろのろ歩け
posted by りょうまま at 14:49| Comment(0) | TrackBack(0) | 中島京子 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス: [必須入力]

ホームページアドレス: [必須入力]

コメント: [必須入力]


この記事へのトラックバック