2020年11月09日

サキ短編集

CIMG3623.JPG サキ短編集
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遠野遥「破局」

破局』芥川賞受賞インタビュー

遠野遥「破局」書評 自分をも突き放す虚無の奥には 評者: 武田砂鉄 / 朝⽇新聞掲載:2020年08月01日

 他人がよろしくない出来事を起こすと、あんなことをする人だとは思わなかったなどと言う人がいるが、他人がどんな人かを把握しているという認識に驚く。人格なるものは常に不安定で、瞬間ごとに変化していくはず。つまり、自分でさえ、自分のことを把握することなんてできやしない。
 第一六三回芥川賞を受賞した本書は、母校の高校ラグビー部でコーチをしつつ、公務員試験の準備に励む大学四年生・陽介の一人語りで進む。政治家を目指す彼女の麻衣子と、お笑いライブで出会った灯(あかり)との間で気持ちが揺れるが、その波動は曖昧で捉えにくい。
 吐き出した言葉を、次の瞬間に疑い始めるような思索が反復するが、それが物語の凹凸を作り出すことはなく、むしろ平坦に続く。
 「私はもともと、セックスをするのが好きだ。なぜなら、セックスをすると気持ちがいいからだ」
 性欲だけでなく、欲に動かされる自分を客観視し、今の時代ってこんな感じでしょ、と言わんばかりに社会の規範を自らにぶつけ、言動を具体的に制御する。正しい人間と査定されることを望んでいるわけではないが、その手の査定に率先して理解を示していく。
 「私は、チーズバーガーを食べるはずだった。ところが、急に魚のバーガーが私の心を捉えた」
 この一文だけを引くと、あたかも英語の教科書の例文を訳したかのようだが、こういったスムーズな思考の連結に、細かなヒビが入っている。砂利のような思考の粒が挟まり咀嚼(そしゃく)を拒むが、いつしか、その砂利ごと味わえるようになる。
 陽介は、やたらと肉を食らう。突き放すように食う。他人に対しても、そして自分に対してもそんな態度だ。引き寄せては放り出す。価値を固定しようとする動きから、逃れようとする。どことなく虚無感に貫かれており、その虚無の中で何かしらが蠢(うごめ)いていることはわかるのだが、その正体をいつまでも発見させない。
    ◇
とおの・はるか 1991年生まれ。女装を始めた青年が主人公の『改良』で2019年に文芸賞。本作品で芥川賞。



2020.11.7〜11/9

101「破局」2020年上期163回芥川賞

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公務員志望で着々と準備を進めている「いい私立大学」に通う陽介の就活終盤に起こった出来事・・p105「〜悲しむ理由がなかった・・」というくだりが印象的。不気味だけど物悲しい。太陽がさんさんと降り注ぐ白い箱の中に4人の男女がポツンポツンと離れてただ立っているような絵柄が浮かぶ。

p105「私は自分で稼いだわけではない金で私立のいい大学に通い、健全な肉体を持っていた・・悲しむ理由がなかった・・つまり悲しくないということだ

★★★

私を阻むものは、私自身にほかならない――ラグビー、筋トレ、恋とセックス。ふたりの女を行き来する、いびつなキャンパスライフ。28歳の鬼才が放つ、新時代の虚無。

【第163回芥川賞受賞作】
選考委員絶賛!
スポーツによって他者を滅ぼし、同時にセックスによって他者から滅ぼされてゆく展開は見事。新しい才能に目を瞠らされた。――平野啓一郎
ほとんどゾンビ化している人間たちによる群像劇。この作者は、きっと、手練(てだれ)に見えない手練になる。――山田詠美
「私」は嫌味な男だ。にもかかわらず、見捨てることができない。社会に対して彼が味わっている違和感に、いつの間にか共感している。もしかしたら、恐ろしいほどに普遍的な小説なのかもしれない――小川洋子

著者
遠野 遥 (トオノ ハルカ)
1991年、神奈川県生まれ。慶應義塾大学法学部卒業。東京都在住。2019年『改良』で第56回文藝賞を受賞しデビュー。2020年『破局』で第163回芥川龍之介賞を受賞。

http://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309029054/

★★★


候補者 遠野遥 男28歳
選考委員 評価 行数 評言
平野啓一郎 男45歳 ◎ 28 「私が推したのは『破局』だった。爽快な小説ではないが、他者への共感能力を欠き、肉体的な欲望(スポーツとセックス)以外は、完全に“自律的に他律的”とも言うべき主人公の造形は、一個の現代的な典型たり得ている。」「主人公が例外的に“自律的に自律的”であったスポーツによって他者を滅ぼし、同時にセックスによって他者から滅ぼされてゆく展開は見事で、「かくれんぼ」の効果的な使用など、各部が緊密に結び合って全体を形作っている。」
吉田修一 男51歳 △ 21 「わりとよくある就活ものの青春小説だと思うのですが、そこはかとなく新しい時代の香りが漂っていて、定型的な物語が逆に新鮮に感じられたような気がします。」「個人的には本作を「若い依存症患者たちの物語」として読みました。(引用者中略)いろいろな依存が出てくるなか、主人公が抱えた「常識・マナー依存」が一番恐ろしい。」
松浦寿輝 男66歳 ■ 36 「カミュの『異邦人』や丸山健二氏の初期作品を思い出させる、乾いたハードボイルドな文体が堂に入っており、抑制された心理描写がかえってこの主人公の不穏な内面をなまなましく暗示する。」「底流しつづけていた「不穏」が最後に暴発するが、この「破局」にはしかし意外に衝撃がない。取り返しのつかないカタストロフというより、若さの無思慮ゆえのちょっとした失態といった程度にしか読めない。」
小川洋子 女58歳 ◎ 31 「二重丸をつけて臨んだ。正しさからはみ出した奇妙な邪悪を描く小説は珍しくないが、『破局』は正しさへの執着が主人公を破綻させる点において、特異だった。」「彼は嫌味な男だ。にもかかわらず、見捨てることができない。社会に対して彼が味わっている違和感に、いつの間にか共感している。もしかしたら、恐ろしいほどに普遍的な小説なのかもしれない。」
島田雅彦 男59歳 △ 16 「「ラガーマンがストーカーやファシスト、ゾンビ、自粛警察になったら」という設定で読むと、不愉快極まりない。おそらくこの不愉快な読後感は、無知とゆがんだ正義感と過剰な体力でスクラムを組まれたら、絶対押し切られるという不安とセットになっている。」
山田詠美 女61歳 ◎ 14 「ほとんどゾンビ化している人間たちによる群像劇、と読んだのは、私だけだったようだ(ほら、走ってタックルするのは、ラグビーかアメフトかゾンビだし)。そんな勝手な読み方をしたせいか、私にとって一番おもしろかったのが、これ。」「この作者は、きっと、手練に見えない手練になる。」
川上弘美 女62歳 △ 11 「表現しようとしていることと、言葉の間に、美しい相関関係があり、その相関関係は一つの完成した数式で表せる、そんなふうに感じました。その意味で、この小説も検算ができるのかと、二度三度読んでいったのですが、いつの間にか検算ができなくなっていた。興味深いです。」
奥泉光 男64歳 ■ 13 「主人公は「欠落」を抱えた人間である。だからこそかれは世間の通念に過剰に従おうとするので、そのアイロニーが笑いを生んでおもしろい。が、かれの「欠落」とは、しかしいったい何なのかと、思考を誘う力が弱い感じがした。」
堀江敏幸 男56歳 ○ 24 「ゴールまでの距離感がしっかりしている作品だった。終着点の不意打ちを活かす加速にも無理はない。」「トライを決めない無意識の節度と、見えない楕円球を手放したまま警官の頭越しに見える空の抜け具合に、敵と味方の言葉の呼吸がうまくかみ合っていた。」https://prizesworld.com/akutagawa/jugun/jugun163TOH.htm続きを読む
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