2020年10月21日

吉田修一「コレクション。青春・恋愛」「横道世之介」「怒り」上下

2020.10.3 土

青春コレクション
CIMG3560.JPG
@Water(p8〜p50)文学界1998年8月号。。17才高校生最後の夏休みから秋の日々、酒屋の次男凌雲、他3名の男子部員の水泳部の活動の日々を書いている。そりゃあキラキラしてる、高校生最後の夏の話だもの。まぶしい・・けど、実は悲しくつらく現実的な話題も次々披露される。その現実話があるから余計に水泳部の活動の話がキラキラしている。青春という言葉がぴったり・・だけどなんだかもの悲しい。真っ只中にいる本人たちはキラキラしてる実感があるだろうか。10年くらいたって高校生時代を振り返ったときに「キラキラしてたなあ」って 懐かしめたら素敵だし羨ましい 10/5

凌雲 酒屋次男坊、高校卒業後は酒屋を継ぐ。交通事故で亡くなった兄がいた。水泳部のキャプテンだった。母が精神不安定になり入院する
   予定

浩介
啓一朗・・母が37才と若い。家出中
拓次・・母はスナックを経営していて大学には行けそうもない・・

凌雲は思う「プールは男らしくないし押しつけがましくないし清潔で淡泊で大変好ましい。」

A突風文学界1999年12月号(p51〜p82)10/7〜10/11

30才間近の新田は会社の休み、九十九里浜の民宿にきて「バイトをさせてほしい」という。店主もOKする・・不穏だ・・

新田は、豪勢な昼食を用意した奥さんに声をかける・・(新田はかなりいけ好かない奴だ・・悪い奴印象)

p63スリルと退屈は両極端なものではない。二つは大観覧車の同じ籠にのっていてスリルの前の席では、いつも退屈が大あくびをしている。。。」

新田は、「待たれるのは大っ嫌い、ぞっとする」「パーキングエリアがきらい、車がどんどん抜いていくと落ち着かない」「1日にトイレに何度も行く」というやつ。

だらだらと話しがつづいたのち。。新田は突然新宿駅前で奥さんをおろし、自分は、会社から連絡があったから仕事にもどらなければならないと1万円札を握らせる。会社ではトラブルが発生しており新田はうまく立ち回っている・・(最低!!、3日もかかって読んだ結末がこれかっ(# ゚Д゚) 新田は、気が弱くておどおどしているイメージ、それを必死に隠している もちろん必死さをみせない・・

2000.10.11 土

B熱帯魚(文学界2000.11)





2020.10.19 月 今日明日は「青春」を読み続けるのだ。。

bW.命綱 p198〜p222

公平とヤコ 25才、同居中、お互い好きな男子、女子あり。
日曜日、p203朝から気持ちい。高い空には雲ひとつなく日差しは暖かい。柔らかい風が少し冷たい。 公平がツタヤで見惚れていた男子はCDを万引きした。公平は、詰問場面を妄想しつつこっそりあとをつける。ヤコから新宿御苑にこないかとメールが入り向かう。ヤコはビアン友の尚子と話していて、公平はタルタルソースのサンドイッチを食べている。夕飯に天ぷらでもあげようかと話をしながらスーパーで買い物をしての帰り道、コンビニで働いている宮田くんを見つけ公平は眺めるためにコンビニに入る。

ヤコは大学で中国美術を学び、目黒区にある美術館で学芸員をしている。公平は翻訳出版の著作権管理を業務といている社員13名「わかば事務所」で働いている。p214朗らかな人に囲まれてそこそこ楽しい毎日を送っている

p219「散歩に出るつもりの足が止まっていた。ビルの向こうに〜  日曜日の太陽は、投げやりで、自堕落で、そしてなんでこう寂しいのだろうか。寂しくなるのはじぶんだけじゃないんだと思う」  散歩途中の公園で宮田くんに会った後、ヤコがボランティアをしている「緒方まちこ事務所」に行った。

ヤコと公平の母がいた・・・「たぶんこの明るさこそが僕らの命綱なんだと思う

LGBTの公平とヤコ・・まるで普通に明るくしているけど・・少数派であるが故のもやもや感はぬぐえない。もやもや感に向かうヤコとなんとなく抱えて暮らそうとしている公平。。やっぱりもやもやを抱えているLGBTではない人たち。。命綱になるのは「明るさ」

bX 一途 p224〜236 「命綱」の出てきた宮田くんの話だ。東北の山奥から上京し、美容院で髪を整え、渋谷で服を買いそろえると一端の都会人となり、大学で女子から告白されることもあったが、好きでも嫌いでもない相手とは付き合う気になれず断っていると、すっかり評判は悪くなってしまった。 一樹から適当に遊べばいいと言われ振り振られを繰り返している真にあっという間に大学3年生。先週からバイトにきている川本保奈美といい感じだ。。。(東京ロミオの「一途」という曲の話題がはいる)

けど保奈美ちゃんは宮田くんを「好きではない」とい。宮田くんは「オレさ誰かのことを本気で好きになったことないんだ」保奈美ちゃんも「私もそうかも」という

宮田くんは保奈美ちゃんと別れたあと、公園に行き、公平と会い、友達と飲んでいるという公平の部屋にお邪魔することにする。p230

人生はサイコロ?ボールのようなものだと思う。ちょっとしたことで、右に行ったり左に知ったり・・どこへ行くか本人にもわからないことも多々ある・・動いているという前提だけど。・・止まっているとどこにも行けない

bP0「初恋温泉」重田光彦、妻彩子、熱海温泉にやってきた。妻からは「別れたい」と言われている。光彦には突然の話だったが、彩子は2年前から考えていた。光彦は都内に居酒屋4店舗持っている。重田光彦は高校卒業後、居酒屋でバイトを始め・・自分でも店を持ってみたいとおもうようになり現在に至る。
彩子は高校の同級生で、「自分の幸福な瞬間を遠くで喜んでほしい存在、見ててほしい存在」(憧れ??)彩子は離婚したい理由について「今の自分に納得できない」という・・彩子は美代子だか美也子だかと会話していた
「旦那の後ろにじっと隠れているだけ。専業主婦なんて聞こえはいいけどけっこういろんなことにびくびくしている」

p251「あなたっていいときしか見せてみれない。調子が悪い時こそ力になってあげたいのに」・・

高校時代、彩子は入りたい大学があるからと光彦との付き合いを断った。大学入学後、名も知れぬ専門学生になった光彦は「胸張って会えるようになるまで待っててくれないか」といった・・きちんと付き合ったわけでもなのに別れだけはきちんとしていた。

p257「幸せなときだけをいくらつないでも、幸せとはかぎらないのよ」・・薄っぺらい幸せに虚しさを感じる彩子ということか


11.「白雪温泉」 p258〜277
 辻野、若菜 25才、青森青荷温泉ランプの宿へ行く。ふすまひとつで隔てられた隣の部屋は30代のカップル、夫婦ではないのではないかと若菜は言う。

大広間で食事中、会話は交わしていないようだが、隣の部屋のカップルは幸せそうに見える

明け方4時、目を覚ました辻野は風呂へ行く、そこには隣のカップルの男性客がいた。話しかけたところ、男性は耳が聞こえないことがわかり目で会話し微笑みあって終わる・・辻野はこの宿へきてよかったと思う。(私もそう思った、いい話だった

12「ためらいの湯」勇次 同僚だった理沙と結婚して2年目。自分が立てた計画通りにものごとが進んだためしがない。 出張とうそをついて、和美と京都への1泊2日の不倫旅行。和美は大学時代の同級生で化粧品やに勤めていて既婚。

p286裏切者同士が、いつの間にかお互いを裏切るのが怖くて離れられなくなった。

13「風来温泉」 那須塩原駅 加瀬恭介は5年前から保険の外交員、妻真知子(元看護師)は保険の外交という仕事を嫌がっていた(親類知人へ頼みまくるから)・・恭介は工業高校卒業後、1年フラフラ〜塗装工〜先輩野田に誘われて、保険の外交員になった。
毎月の給料明細で勝ち負けを確認する。前夜、真知子から恭介がびくびくしているように見えるといわれてかっとなっり暴力をふるった。

那須塩原駅からホテルまでのシャトルバスには女性が一人乗っていた。山本かおり、化粧品会社を経営しているらしい・・恭介は団体保険をすすめた


13「純情温泉」p311〜338  高校生健二、親には男友達と行くといい、実は真希と阿蘇の黒川温泉に行く

17才の二人・・健二は真希と一緒にいることの気持ちよさがいつかなくなるなんていくら考えても想像できなかった・・(いいなあ17才・・不幸のはじまりでもある・・)

「日曜日たち」p340〜

14「日曜日のエレベーター」p340〜354 失業中の渡辺、馴れない自炊を始めた。池袋西口のワンルームマンションに住んで10年  p341「仕事など探せば見つかる」という楽観が心の中に残っていてその底に残った楽観を指先で掬い取りちびりちびりなめているうちに日も暮れて・・

医者の卵だった圭子と付き合っていたのはここへ越してきて2年目か3年目   p345 誰かを愛するということが好きになることではなく、嫌いになれなくなること だと知った

韓国籍の圭子・・駐車場で家出兄弟にたこ焼きを食べさせた話・・

※圭子との付き合いはじめから終わり、その後・・のエピソード

15「日曜日の被害者」p355〜373

千景と夏生、短大時代からの友人 千景は2週間前に泥棒に入られたと小説の続きをよもうとしていた夏生に電話をしてきた。

p355 「今週は絶不調ですおとなしくしてたほうがいいでしょうと書かれた占いを週の初めに読んでしまったような先走った徒労感

夏生は怖くなって恋人の佐々木に連絡して、佐々木の家へ向かうタクシーの中で、思い出したエピソード・・

7、8年前、夏生、千景、彩と京都へ旅行した。21歳のころ。・・帰り道の険悪状況の新幹線で、子供の兄弟と会った・・その兄弟と千景を襲って泥棒にはいったという若い男二人組が重なるという話

16「日曜日の新郎たち」p374〜p391

健吾、父正勝。正勝は大工で気が短いが東京見物をしたいと言ってきた。



青春から

17日曜日の新郎たち p379〜 2002年

p389何かを忘れずにいたいと健吾は思う。何かを忘れずにいるということが絶対に不可能だと思うから、ますます何かを絶対忘れたくないと思う

p391父親は言う「忘れようとするのは大変なもんやなあ・・忘れようとすればするほど忘れられん。人間っちゅうものは忘れたらいかんものをこうやって覚えておくもんなのやろな・

※泣きそう。父親の言葉は母(妻)を思っての言葉。。忘れたくても忘れられない父と忘れまいと写真を飾ったままの健吾・・相手と関わった年月の違いを感じる

2020.10.20

18日曜日の運勢 P392〜P410

P392 ほとほとツキのない日々が続くもんだと田端は思う

19.日曜日たちp411〜p436

乃里子は10年住んだワンルームマンションを引っ越す。故郷の名古屋に帰るのだ・・

(予想とまるでちがう話の展開に驚いた、同時に泣けた。女版世之介みたいな話だ)

p453 この苦しみの先にいったいなにが待っているのか、それを知っているか知らないか、その違いがあるだけなのだ。不条理な苦しみは、明日を待っていても解決されない


bQ0パレード P438〜p599 2002年

●杉本良介21歳H大経済学部3年、所有車は7万円で購入した中古のすぐ止まってしまうマーチ。

大垣内琴美という美人と千歳鳥山の2LDKのマンションで同居している
琴美が短大のころ付き合っていた彼氏で現在売り出し中の俳優丸谷友彦からの電話を待ちながら暮らしている
琴美のことを涼介の友人の佐久間が好きで告白もしているけれどうまくいっていない
相馬未來、井原直輝という同居人もいる

高校の同級生から、今度オープンするディズニーシーに典子や理沙と一緒に遊びに行くという連絡とともに、真也が死んだという情報が伝えられた。真也は中学の同級生で不良グループの一人、涼介は体育会系グループの一員。

涼介は梅崎先輩の彼女を好きになり、泊りに行き、翌朝、彼女の弟の隣に座ってだらだら涙をながしながらトーストを食べるというシーンで終わる。

●大垣内琴美 23才 無職。。。中学の頃から恋愛ドラマを見続けてきた。短大を卒業して医薬品メーカに就職して、楽しく暮らしていた・・何に対しても興味がない。お前には苦しみも本当の喜びもない。。と言われた気がして、東京へやってきた。今まで唯一苦しめられた丸山友彦の恋のために。丸山友彦はかなりのイケメンだった(パレードが発行された2002年、イケメンという言葉はあっただろうか・・)・・・丸山友彦は芸能人として売り出し中だ。琴美は丸山から連絡があったときだけ会うために生きている。

●相馬未來 24才イラストレーター兼雑貨店店長 p502〜 私が酔って連れてきたらしいサトルと名乗る少年がこのマンションで暮らし始めてそろそろ2週間になる。自称小窪サトル18歳、夜の仕事に勤務。私は彼を新宿2丁目で拾った。・・・p506 今の世の中「ありのままで生きる風潮が美徳のようになっているが、ありのままの人間なんて、私には「怠惰でだらしのない生き物」のイメージしかわいてこない。・・・P508 社長に新宿2丁目に連れてこられたとき、どんな悪人でも入場可能な敷居の低い天国に来たようだと思った。

●小窪サトル 18歳 自称「夜のお仕事」 ※直樹たちのことを「お友達ごっこ」をやっている連中と見抜く、侮れないやつ   p559正直なところここに長居しすぎたかもしれない。こいつらのおままごとにつきあっていると、大検どころか、今に一流企業に就職までさせられちまう

●井原直樹 28才 インディペンデントの映画配給会社勤務・・・・※わりと普通・・・・結末は・・自分自身の想像力のなさが情けない・・

話のラスト展開・・琴ちゃんが妊娠・・P576 相談されたところで

※直樹と美咲の関係は理想的だ、素直に羨ましい →→→ とんでもない勘違いだった。。

※※

読み切った満足感。およそ20編の短編、50人弱の人物の物語はすべて違っている。すごいなあとしかいいようがない。これらの短編が「怒り」「悪人」につながっていったのだなあと思う。さわやか系不穏系の繰り返し。お気に入りは1位「熱帯魚」2位「パレード」だったけど。パレードラストで・・印象に残る第1位はパレードかもしれんと思いなおす。好きなのは「熱帯魚」だ。続いて「恋愛」へ取り掛かる





★★


恋愛コレクション
CIMG3561.JPG

2020.1.10〜

3.CIMG2962.JPG  p29 こうやって会社で嫌なことがあってもふと世之介のことを思い出すとほっとするんだよ、無理しなくてもいいよなって。世之介みたいなやつでもちゃんと生きていけるんだなあって。強くなった気になれる


東京オリンピックの年(たぶん2020年)と25年前(たぶん1995年)を行きつ戻りつ進行していくのでややこしいーー。1995年から25年後の登場人物たちはどんな人生を送っているのか、世之介はどんな関わりをしたのか・・という物語。話の流れについていくのが大変だったけど面白かったな


2014.2.24

怒り」上下

◆主人公は山崎一也 昭和59年生まれ、178センチ、68キロ、28歳。「八王子夫妻殺害事件」容疑者。逃走中
父は邦彦。めっき加工工場勤務42年、母景子、事件前は清掃のパートをしていた。一也にはなくなった兄がいた。一也は幼少時はスターのような存在だったが、小学校高学年より普通の子となる・・

他登場人物多数(多すぎぃ・・
・・愛子:「あまり役にたたないお守りのような存在・・」いないと気になるような女の子・・情にあつい・・登場人物はみな情にあつい??人ばかりのようにも思うが・・

優馬・・・広告代理店勤務。恋人?は直人。母と兄との3人家族で育つ。新聞配達をするような貧しい境遇ではあったが、地域の人のおかげであたたかい思い出が多く残る豊かな少年時代をすごしてきた
母はがんで闘病中。余命少ない。兄は友香と結婚し、生まれて間もない娘もいる。

◆直人・・・いつしか優馬の同居人となっている

殺人現場には、血文字「怒」が残されていた。事件から1年後の夏、物語は始まる。逃亡を続ける犯人・山神一也はどこにいるのか?

内容(「BOOK」データベースより)

殺人事件から1年後の夏。房総の漁港で暮らす洋平・愛子親子の前に田代が現われ、大手企業に勤めるゲイの優馬は新宿のサウナで直人と出会い、母と沖縄の離島へ引っ越した女子高生・泉は田中と知り合う。それぞれに前歴不詳の3人の男…。惨殺現場に残された「怒」の血文字。整形をして逃亡を続ける犯人・山神一也はどこにいるのか?『悪人』から7年、吉田修一の新たなる代表作!

Amazon.co.jp: 怒り(上): 吉田 修一: 本

【著者に訊け】吉田修一 市橋達也事件念頭に置いた『怒り』

2014.02.23 16:00:27
by NEWSポストセブン

【著者に訊け】吉田修一氏/『怒り(上・下)』/中央公論新社/各1260円

 角度や社会性を孕(はら)む「3」が、絶妙に奏功した作品だ。房総半島の港町・浜崎に暮らす〈洋平〉〈愛子〉親子の前に現れた、まじめだが過去を語らない青年〈田代〉。大手通信会社に勤務する〈優馬〉が、ある時〈発展場〉で出会った〈直人〉。わけあって沖縄・波留間島に母と身を寄せた高校生〈泉〉が、無人島の廃墟で出会う謎の男〈田中〉……。

 この3人の身元不詳の男を巡り、千葉・東京・沖縄の3地点に同時進行で隣り合う物語を、吉田修一氏の最新作『怒り』は描く。

 発端は1年前に八王子で起きた夫婦惨殺事件。現場に〈怒〉と書き殴った血文字を残し、現在も逃亡中の犯人〈山神一也〉は、大阪市内の整形外科で顔を変え、目撃情報は全国各地に及ぶ。

 実は自分の知るこの男が山神ではないかと、社会の隅々に疑念が広がってゆく光景を、「3」は皮肉なまでに象徴していた。果たして山神は田代か直人か田中か。いや、“3分の0”であってほしいと願わずにいられないほど、誰かを信じたいのに信じきれずにいる人々の“信頼”を巡る物語である。吉田氏はこう語る。

「念頭にあったのはお察しの通り市橋達也の事件です。といっても僕は彼の2年半に及ぶ逃亡劇や事件そのものより、目撃情報の通報者に興味があった。街で似た男を見た程度ならともかく、身近な人間に対して疑念が生まれていく“事件の遠景”に胸騒ぎを覚えたんですね。

 当初は立場や関係の違う設定を十数通り考えたんですが、さすがに全部は書き切れず、絞った結果がこの3地点。そして3人のうち犯人を誰にするかも決めないまま、彼らの正体を巡って引き起こされる人間模様を書き進めていきました」

〈犯行後、男は六時間も現場に留まり、そのほとんどを全裸で過ごしている〉

 帰宅直後の保育士及びその夫を殺害し、熱帯夜にエアコンのスイッチを探してか部屋中に指紋を残した立川市の無職、山神一也、28歳は、八王子署〈北見〉らの捜査を逃れ、姿を消した。左利き。右頬に3つのほくろ。また自宅に〈ゲイイベント〉の予定が残されていたことから女装の想定写真も公開し、テレビの公開捜査番組でも情報を募集したが、足跡は依然断片的だ。

 そんな中、浜崎では愛子が漁協に勤める父・洋平と田代に毎日せっせと弁当を届け、東京・桜新町にある優馬のマンションには新宿の発展場で一夜限りの関係を持った直人がなぜか転がり込んでいる。

 洋平は人を疑うことを知らない愛子をつい先日も歌舞伎町のソープから連れ戻し、2か月前から港に居着いた田代に好意を寄せる娘をどこか諦めがちに見ていた。一方優馬も仕事や家族関係に恵まれながらゲイゆえに孤独を抱え、刹那的快楽に逃げこんできたが、今では無口でどこの誰とも知れない直人を〈自分より大切〉だとすら思う。

 例えばある日の仕事帰り、優馬は両手にコンビニ袋を提げて歩く直人を見かけたのだ。袋の中で傾く弁当を彼は水平に保ちたいらしく、よろよろ歩いては立ち止まり、弁当を膝で立て直そうとする姿に笑いを堪えながら優馬はふと思う。〈相手の何を知れば、そいつを信じられるのか〉〈まさか、この姿じゃないよな〉〈この後ろ姿で相手のことを信じろってのは無理だよな〉……。

 優馬そして洋平たちも、目の前のその姿を信じてしまえばよかったのだ。相手を信じる条件や担保を求めるあまり、彼らはせっかくの信頼に自らヒビを入れ、傍から見れば奇蹟にも映る関係が失われるのは、何も本書の3地点に限らない。

「結局は相手を信じるしかないんですけど、その信頼の根が意外と脆弱なんですよね。タイトルも山神の怒りというよりは、大切な人を信じきれない自分に対する怒りで、洋平は愛子が幸せになることをどこかで信じきれず、優馬にしてもがんで入院中の母親に対する思いまで共有してくれる直人を恋人と呼べずにいる。その愛情や信頼を認めたい心に何かが蓋をする。要するに〈自信〉がないんです」

 一方泉と同級生の〈辰哉〉にも悲劇が待つ。あるとき那覇で米兵に襲われた泉との約束を彼は彼なりのやり方で守ろうとし、なおも信じあう彼らに試練を与える作家の非情を恨みたくなる。

「ですよね……。ただそれも含めて“隣町に降っている雨”みたいな部分はあると思うんですね。この中に沖縄と東京と千葉を通過する〈台風〉が出てきますが、僕らはよその町で降る雨の、傘までは心配しない。でも山神の事件が方々で信頼を蝕むように何かしら関係はあって、基地や原発問題もたぶん構図は同じなんで」

 若い泉や辰哉はもちろん、自分で自分に蓋をする優馬や洋平が、言葉にできない感情を持て余し、あるいは言葉に背かれる瞬間を氏は丁寧に掬い取り、それこそ言葉に対して全幅の信頼を置いていないかにも映る。

「確かに疑ぐり深くはありますね。例えば僕は誰かを苦手だなと思った次の瞬間、『話してみたら何てイイ人だ』と思ったり、情けないくらい意見がコロコロ変わる(笑い)。でも物事の見え方は場所や距離次第で変わるものだし、自分の言うことが常に正解だと疑わずにいられる人が眩しいくらい。要は自分に自信がないだけですけど、だから人は人を信じたいとも思えるんだし、僕の場合は小説を書くんだと思います」

 そんな吉田氏が描く事件の遠景にいつしか心は奪われ、彼らの関係を何とかして守りたいと思うほど愛してしまう。そのとき隣の雨はもう、私たちの雨だ。

【著者プロフィール】
 吉田修一(よしだ・しゅういち):1968年長崎県生まれ。法政大学経営学部卒。1997年『最後の息子』で第84回文學界新人賞を受賞しデビュー。2002年『パレード』で第15回山本周五郎賞、『パーク・ライフ』で第127回芥川賞をジャンルを超えて受賞し、話題に。2007年『悪人』で第61回毎日出版文化賞と第34回大佛次郎賞、2010年『横道世之介』で第23回柴田錬三郎賞。映画『悪人』では脚本も担当し、『さよなら渓谷』など映画化作品多数。174cm、63kg、O型。

(構成/橋本紀子)

※週刊ポスト2014年2月28日号
【著者に訊け】吉田修一 市橋達也事件念頭に置いた『怒り』 – SNN(Social News Network)
吉田修一

(よしだ しゅういち、1968年9月14日 - )は、日本の小説家。

長崎市出身。長崎県立長崎南高等学校、法政大学経営学部卒業。その後、スイミングスクールのインストラクターなどのアルバイトなどを経験。1997年、「最後の息子」で、第84回文學界新人賞を受賞し、小説家デビュー。同作で、第117回芥川賞候補。

2002年、『パレード』で、第15回山本周五郎賞を受賞し、同年には「パーク・ライフ」で、第127回芥川賞を受賞。純文学と大衆小説の文学賞を合わせて受賞したことで、山田詠美や島田雅彦と同じ系統のクロスオーバー作家が現れたと話題になった。

2003年、布袋寅泰のシングル『NOCTURNE No.9』のカップリング「グレイト・エスケイプ」で、作詞に挑戦。

若者の都市生活を描いた作品が多かったが、殺人事件を題材にした長編『悪人』で2007年に第61回毎日出版文化賞と第34回大佛次郎賞を受賞。 

2010年、『横道世之介』で第23回柴田錬三郎賞を受賞。

吉田修一 - Wikipedia
ラベル:吉田修一 怒り
posted by りょうまま at 23:51| Comment(0) | TrackBack(0) | 吉田修一 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする